2022年11月1日、「芭蕉布」「島々清しゃ」「ゆうなの花」などの作曲で知られる普久原恒勇さんが亡くなりました。沖縄を歌った数々の名曲「普久原メロディー」はこれからも世代を超えて歌い継がれていくと思います。
普久原恒勇さんの書籍について紹介します。
『芭蕉布 普久原恒勇が語る沖縄・島の音と光』
1冊目。
『芭蕉布 普久原恒勇が語る沖縄・島の音と光』普久原恒勇/磯田健一郎 編 (2009年7月31日 ボーダーインク)
普久原恒勇さんは戦後沖縄の音楽史を語る上で外してはならない方で、特に沖縄ではとても有名な方ですので、普久原恒勇さんについて書かれた本は地元図書館になら沢山あると思っていました。ですが、思いのほか少なかったです。なのでこの本はとても貴重だと思います。
裏方に徹する余りご自身のことを記した単行本の発行などは断られてきたそうですが、編者の磯田健一郎さんが長年働きかけてきたことにより形になったのがこの書籍である、という旨が「あとがき」に書かれていました。
普久原恒勇さんの生い立ち、沖縄音楽専門のレーベル「マルフクレコード」のこと、作曲のお仕事のこと、ご自身の関わってきた歌い手さんのこと、手がけられた作品のこと、そしてフォトグラファーとしての普久原恒勇さんのこと。幅広いトピックに関するロングインタビューが掲載されており、この1冊で普久原恒勇さんのことがそのお人柄も含めて俯瞰的に分かります。
「職人」
普久原恒勇さんの作品との向き合い方を本書を通して見ると、まさにこの言葉が浮かんできました。新しいものを生み出す、という創り手としての使命を頑として掲げながらも、人々から求められるものや喜ばれるものをひたむきに作ってきた。そんな姿勢が浮かび上がってきます。
西洋音楽や日本の音楽にも精通しておられるが故、沖縄民謡のルーツを大事にしながらもその範疇を超えて「新しいけど普遍的なもの」を創り続けることができたのかな…と思うと、尊敬せずにはいられません。
ジャンル横断的にポップス、クラシック、沖縄唱歌、民族楽器による管弦楽…と多岐に渡る音楽を残された大作曲家ですが、作品を通して沖縄の人を励まし支え、寄り添ってきたことに敬意を表します。
「芭蕉布」のこと
1965年にこの曲は生まれました。作詞は吉川安一さんです。なぜ「ワルツ」したのか。その質問への回答は意外なものでした。つまりは新しいものへの挑戦です。
物心ついた時にはこの曲を知っていたので、個人的には三拍子であることに違和感を持っていなかったのですが、確かに四拍子だらけの沖縄民謡の中でも三拍子は珍しい。そこで改めてワルツであることを意識して「芭蕉布」を聴いてみましたが・・・・やはり私には全く違和感がありません(笑)言葉と音楽が限りなく一致していて、これ以外にチョイスはないと思えます。歌詞の中に三文字の言葉が多く出てくることも、三拍子がしっくりくる理由の一つなのでしょうか。
深みがあって美しく、沖縄の風土に溶け込んでいるホームソングだと思います。作者はもう既に亡くなっていると思われていることを普久原恒勇さん自らが「生きててごめんね~」とネタにしていたという逸話が何とも言えずに素晴らしいです。曲は聴いた人が評価すれば良い、曲が作者の手を離れて聴き手のものになればいい、そんな考えをお持ちだった普久原恒勇さんの意志が反映されています。
ちなみに私にとってこの曲の一番古い思い出は「小学4年生の頃に初めてバスリコーダーで吹いた曲」なので、個人的にも原風景を彩る大事な曲です。
『ぼくの目ざわり耳ざわり』
2冊目。
「ぼくの目ざわり耳ざわり」普久原恒勇 (2019年9月発行 琉球新報社)
この本は2016年8月~2018年11月の琉球新報に掲載されていたエッセイが一部修正されたものです。普久原恒勇さんの時にシニカルで毒舌な物言いにクスっとしますが、音楽だけではないあらゆる分野への造詣の深さに驚かされます。そして一つのエッセイに必ずと言って良いほどウチナーグチに関する話題があり、全編を通してまるで「普久原ウチナーグチ講座」のようでもあります。こんなに読みやすいのに、一つ一つのエッセイがとても勉強になるなんて…ありがとうございます。
前の本で普久原恒勇さんが多くの作詞家の方とお仕事をされてきたことが分かりますが、言葉と戯れ向き合ってきたその作曲家人生を少しだけ伺い知ることができる気がするのと同時に、沖縄を真正面から切って、料理して、お客さんに提供する、そんな物言いにオリジナリティー溢れるエンタメ精神を垣間見るような気がします。
いや~、本当にストイックにストイックにとっってもストイックに言葉に向き合い続けてきたからこそ書ける珠玉のエッセイの数々、おススメです。
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