【ブックレビュー】「地元を生きる 沖縄的共同性の社会学」岸政彦、打越正行、上原健太郎、上間陽子著

この著書は、4人の社会学者・教育学者による地道で膨大なフィールドワークの賜物であり、「楽園的」な沖縄イメージとはかけ離れた「沖縄的共同性」の中で懸命に生きる人々の姿が描かれています。

彼らの研究の中で暫定的あるいは発見的に分類された「安定層」「中間層」「不安定層」の各階層に属する人々の生活史は、沖縄社会における階層格差を浮き彫りにしています。

ここでの調査はあくまで「生活の欠片たち」を集めたものであり、各階層を代表するものではないと序文で断りがありますが、各研究者が追いかけた生活史のひとつひとつは確かな現実です。特に、長年に渡る参与観察等で得られた「不安定層」を生きる彼ら/彼女らの実態は、沖縄を簡単に「ゆいまーるの島」と言ってはいけないと改めて意識させられる過酷さに満ちています。

また序文では、戦後の沖縄でアメリカと日本による経済構造がどのように作られ、沖縄が「零細サービス業」に頼る島となったのか/ならざるを得なかったのか、それが本書にとって最も基底的な事実だということも述べられています。第一章では沖縄経済の厳しい現状、県内の階層格差や不平等性等の考察がデータを伴って詳しく述べられており、戦後から今に至る基地との共存と沖縄の貧困問題の関連性を忘れてはならないと思わされます。

「沖縄で生活を営む一人の県民」である私自身にとっては、階層を織り成す一部としてどのように立ち振る舞えば良いのかと右往左往させられる思いでした。

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目次

序文ー沖縄にとって「地元」とは何か

第一章 沖縄の階層と共同性

第二章 距離化ー安定層の生活史

第三章 没入ー中間層の共同体

第四章 排除Ⅰー不安定層の男たち

第五章 排除Ⅱーひとりで生きる

あとがき

第二章の「安定層」とは、公務員や会社員など相対的に安定した生活を送っている層の人々です。

第三章の「中間層」とは、地域社会ネットワークの中でサービス業などに従事する層の人々です。ここでは仲間と共に競争の激しい那覇で居酒屋を立ち上げ、経営している若者の姿を追いかけています。

第四章の「不安定層Ⅰ」では、暴走族の「しーじゃ・うっとぅ(先輩・後輩)」やその母体とも言える解体工事請負会社における参与観察により、貧困・暴力・地域社会からの排除を経験する男たちの姿を描き出しています。

第五章の「不安定層Ⅱ」では、十代のうちにセックスワークにより自立を図った少女の姿を描き出しています。

「安定層」「中間層」「不安定層」のそれぞれの生活史及び沖縄社会での立ち位置等の考察を見ることにより、沖縄社会を構造的・多角的・横断的に捉える一助を得られます。

「不安定層Ⅰ」「不安定層Ⅱ」で描かれた彼ら/彼女らの懸命に生きる未来には、各章の締めくくりにおいては微かながらも「希望」が見出されている印象を受けます。しかし、その背景には幾多もの生き様があるということ、それらは本書で描かれたケース以上に過酷なものも含まれるということを忘れてはならないと思います。

「声」の顕在化

社会学におけるエスノグラフィーは、マイノリティーの声を顕在化する一つの手段だと思います。彼ら/彼女らは別に誰かに聞いてほしいとは思っていないかもしれない。しかし、この著書でいう「安定層」は、「不安定層」の声を聞こうとしないというよりは「そもそも知らない」かもしれないし、彼ら/彼女らを経験的に知ってはいるが無意識に悪意もなく「距離化」を図っているなどしていると思います。沖縄社会において「共同体」がどのように再構築されるべきなのか考えた時、その声の顕在化(断片的であっても)は意義があることだと思います。

地元に拘束されて生きている「彼ら/彼女ら」の生活史。それが断片的なものであっても何かしらの「普遍性」は存在していると思います。人は誰しも生まれた場所を変えることはできず、気が付けば身を置いていた場所で懸命に生きる道を模索するしかありません。本書で浮き彫りにされているのは沖縄社会における階層格差ですが、もっとグローバルに見た時の「分断」や「階層格差」について、沖縄社会を切り口に考えるきっかけをも本書は与えてくれていると思います。

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