【舞台鑑賞】ミュージカル「マリー・キュリー」(ネタバレあり)

韓国発の「ありえたかもしれない」もう一つのマリーキュリーの物語が、ファクション・ミュージカル(Fact × fiction)として東京と大阪で上演されました。

  • 東京 天王洲銀河劇場 2023年3月13日~26日
  • 大阪 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ 同年4月20日~23日

公式サイトはこちらです。

東京公演を観てきましたので、その感想を書きます。

「光」というテーマ

「ラジウム(緑の光)」を見つけ出すことに夢中になったマリーが人生の最期に見出した「光」とは?

「光」というキーワードが作品を貫くテーマだったと思います。

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女性移民者への差別を乗り越えて

ノーベル賞受賞者となる前も後も尋常ではない困難を乗り越えたマリー、まずぶち当たったのは「ポーランド人」かつ「女性」であることでした。

男性の戦場だった科学の分野。ポーランドから単身パリへ渡り、新しい元素を見つけ出す夢に胸躍らせ、女性移民者への偏見や差別という困難にめげずに道を切り開いていくマリー。作中でも逆境をいかに乗り越えていったか描かれています。

最大の理解者であるはずの夫ピエールにも「あなたはフランス人で男性だから私の気持ちが分からないのよ!」と言葉をぶつけるシーンがあり、最愛の夫とも分かり合えない孤独、社会への怒りや焦り、意地やプライド、それだけでは説明できない切実さ、あらゆるものが吐き出されていました。

女性がキャリアを重ねて活躍することが、今よりもはるかに難しかった時代(マリーは1867年生まれ)。マリーの苦労や活躍が、次世代への轍を作ってくれたのだと作品を通してより実感します。

ラジウムの闇に向き合って

史実でマリーはラジウムの人体への有害性を最後まで認めなかったそうですが、ラジウムを素手で触るような健康被害に無頓着な研究生活を長年続け、亡くなった原因は「再生不良性貧血」だったそうです。

この作品は、マリーがラジウムが病気を治す光の部分がある反面、人体への有害性という負の部分があることをきちんと描いており、マリーがそれに向き合う姿に胸を打たれました。苦心の末にやっと見つけ出したラジウム、不治の病・癌を治せるものなのに人を死に追いやるはずがない。そう思いたいマリーの気持ちには感情移入しました。このスキャンダルを認めたくないという苦悩は、見ていてとても苦しかったです。

しかし、親友の働くラジウム工場で沢山の工員が倒れていることを知り・・・。

フィクションの登場人物「アンヌ」がマリーにどのような働きかけをするのか、それが大きな見どころになっており、放射能がどのような役割を持って人間に使われてきたのか、その歴史を知っている現代人の心に訴えてきます。ある決断をして「それでこそマリーよ!」とアンヌに言われるまでのマリーの心の動きは、涙を誘います。

母と研究者の両立から

身につまされるような思いをしたのが、娘に絵本もろくに読んであげられなかったと晩年のマリーが言うところです。1幕のラストナンバーは、マリーがラジウムの緑の光を鬼気迫る目で見つめ「私はあなた!」とまで言ってのける凄まじさでした。しかし研究者である自分は研究を続けることで娘を愛するのだ、という強い信念を持っているマリーにもあらゆる場面で葛藤があったはずです。

娘のイレーヌも作中に登場しますが、彼女が母の背中を追いかけて研究者の道を進んだことはマリーにとっても観客にとっても「光」となりました。イレーヌは史実でもノーベル賞受賞者となる研究者です。

子の愛し方、家族の在り方や過ごし方、生き方などは人それぞれでいいのだと改めて思います。

ヒール役からの問題提起

一貫してヒール役のルーベンが、観客にずっと違和感や不信感を抱かせ続けていました。超越者のような振る舞いで、マリーのあらゆるクロスロードで登場し運命の鍵を握る。アンヌ同様にフィクションの登場人物ですが、このルーベンが作品をさらに深化させる役割を担っていました。

ラジウムの闇を全て知っていながらキュリーを試し続けているようなこの男が、ラジウム工場の経営者という設定。作品に入り込んでいるのにメタ的で、観客と作品の橋渡し的な存在でもあったと思います。ヒール役のこういった投入方法はすごいなと思いました。

ルーベンという最後まで謎に包まれた登場人物の存在がどのような問題提起をしているのか、考えるほどに現代人への挑戦状かもしれないと思えます。現代人がラジウム、放射能をどのような倫理観を持って扱っていくべきなのか、またマリーやピエールが特許を取らなかったメリットとデメリットは何か。我々地球に生きる人々の平和な未来とは?そんな大きなところまで考えるきっかけを与えてくれます。

13人の出演者による奥行きのある作品

たった13人の出演者で成り立っている作品とは到底思えないような奥行きでした。

一人何役もこなしているけどそれがあまりにも自然で、かつ場面ごとにキャラクターが全く違っていて圧倒されました。

1幕では「なんだ!?何が始まった!?」と思うようなダンスシーンが2か所ほどありました。度肝を抜かれますが、どちらも「ザ☆楽しい!」シーンで最高でした。その煌びやかなシーンの後にしっかりストーリーの重要な部分に戻すというメリハリで、より作品世界に引き込まれました。

対照的に、2幕では泣かされるシーンがいくつも登場します。マリーとアンヌの対峙、マリーとピエールの別れ、そしてラジウム工場の工員達の笑顔・・・。ラジウムは自ら光を発する元素、そして人は皆、誰かのそういう存在=光なのだと気付かされます。また、誰かを光だと思うことで生きていける。そんなことを感じさせました。

もう一度観てもう一度涙したい。色んな感情で満たされてお腹いっぱいになった作品でした。ごちそうさまでした。

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