【ブックレビュー】「水素エコノミー ―エネルギー・ウェブの時代」 ジェレミー・リフキン (著)

太陽光も風力発電も気になりますが、「水素」が気になります。

脱炭素社会に近付くための次世代エネルギーとして「水素」が存在感を示している昨今、知識人の書いたこのボリュームある書籍を手に取ってみました。

20年前に出版された本ですが、あらゆる方面への示唆に富んでいて参考になります。

  • タイトル: 水素エコノミー ―エネルギー・ウェブの時代
  • 著者: ジェレミー・リフキン
  • 翻訳: 柴田裕之(翻訳)
  • 出版社 ‏ : ‎ NHK出版 (2003/4/26)
  • 発売日 ‏ : ‎ 2003/4/26
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水素に15兆円の投資

まずこちらのニュースに注目です。

【概要】政府が2023年4月4日、水素基本戦略を5月末をめどに改定することを明らかにした。2040年の水素の供給量目標を200万トンから1200万トンまで増やすことを検討するというもの。今後15年間で15兆円を投資し、水素エネルギーの普及を後押しする。

脱炭素の動きについて、日本は他国よりも遅れを取っているというイメージを多くの人が持っていると思います。水素についてはようやく一般市民レベルにまで目に見えて普及が進んできていますが、まだ普通の人が生活の中で使用しているわけではなく身近な存在だとは言えません。その水素、いよいよ日本政府がテコ入れを図ろうとしているのだな…という印象を受けました。

「水素エネルギー・ウェブ(HEW)」の構築を

書籍の話に戻りますが、水素エコノミーがいかに世の中の平等に貢献するかという視点が貫かれているため、化石燃料の功罪を解き明かすところに大きなボリュームが割かれています。その分厚さはすごい。化石燃料とイスラム教の関係についても説明されており、化石燃料が中東に集中していることの不幸、資源所有国がいかに平和からかけ離れたところに置かれるか、戦争の起こる理由、そのようなことを考えさせられます。2001年の同時多発テロ事件の直後に執筆されたと見られ、当時の情勢が色濃く反映されているという面もあります。
一方、地球温暖化に対する危機感も強く示されています。NAS(米国科学アカデミー)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書などからデータを引用し説明しています。
いずれにせよ、本著は化石燃料に依存する世界に警鐘を鳴らしています。

20年前からあった主張

水素燃料は製造過程で二酸化炭素の排出がない(あるいは少ない)ため地球温暖化を抑制することができ、また化石燃料のように偏在せず世界中どこでも手に入ります。また発電施設も簡便で供給・消費の面で平等であるため、我々は限りのある化石燃料から脱却して水素エネルギーを主流にすべきであり、「水素エネルギー・ウェブ(HEW)」の構築を急ぐべきだと筆者は主張します。それによって貧困国にもパワーを与え、民主的な社会に近付くとのことです。

20年前から既にこのような主張があったのか…と驚きました。

「水の電気分解」の課題

「水素」はほとんどどこにでもありますが、抽出しなければならない存在です。様々な製造方法がありますが、20年前は「水蒸気改質法」によって天然ガスから取り出す方法がメジャーだったそうです。もちろん、その方法だと副産物として二酸化炭素が出ます。

一方、「電気分解」とは水を水素原子と酸素原子に分ける方法で二酸化炭素を排出しないそうですが、この方法で作られる水素は当時は4パーセントに過ぎなかったとのこと。電気分解に使用する電力を自然由来のもの(太陽光や風力発電など)に代えることができれば晴れてクリーンエネルギー(いわゆるグリーン水素)となりますが、それを安価なものにし流通を加速させるところに課題があるそうです。

国内でも、グリーン水素については製造するよりも海外から調達する方が安いため、まずは海外産のもので流通を活性化させていくところから水素エネルギーが浸透していくのだろうと思います。

水素エコノミーの夜明け

1874年にSF作家ジュール・ヴェルヌが発表した「神秘の島」という作品の中に、「石炭がなくなったら、その代わりに燃やすものは水だよ」と言った登場人物がいたとのこと。それから149年後の現在、ジュール・ヴェルヌが示唆した水素エコノミーの夜明けが訪れようとしているわけです。

資源を巡る争いは、いつまでも絶えません。この書籍で書かれていることは水素社会たもたらす理想の未来であり、水素社会の欠点や課題について多くは述べられていませんが、エネルギーの民主化が進むことによってどのような国際社会が成立し得るか考えるきっかけになると思います。

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