浦添市美術館の令和2年度第2期常設展「琉球漆芸の今 受け継がれる技」を鑑賞しました。
【概要】「琉球漆芸の今 受け継がれる技」
浦添市市制施行50周年記念展・令和2年度第2期常設展「琉球漆芸の今 受け継がれる技」
- 展示期間:2020/9/23(水)から2021/1/17(日)まで
- 展示場所:浦添市美術館 常設展示室 (沖縄県浦添市仲間1-9-2 ☎098-879-3219)
- 開館時間:9時半~17時(金曜日は19時まで)
- 休館日:毎週月曜日
- 観覧料:一般200円(160円)、大学生130円(100円)、65歳以上160円、高校生以下無料 ※( )内は20名以上の団体料金
展示会の内容
この展示会では、琉球王国時代から現代に至るまでの琉球漆器約90点を時系列を追って鑑賞できます。
元々浦添市美術館で保有しているものだけではなく、今回の展示会のために借りてきた作品も観ることが出来ます。
※なお、収蔵品は撮影OKとなっておりSNSでシェアすることが許されています。また「SNSシェア割」があり、SNSでシェアすることを申告することで入館料が割引きになります。
展示会は、琉球王国時代の漆器と近代沖縄の漆器の紹介から始まり、沖縄県指定無形文化財「琉球漆器」保持者をはじめとする現代沖縄の漆芸作家の作品の紹介に移っていきます。
漆芸は伝統を重んじながらも時代の変化に合わせて有機的に変化を遂げてきており、現代においては作家ごとの匠の技による個性豊かな煌めきを放っていることが分かります。今後の漆芸の担い手である若手作家の作品展示も興味深かったです。
展示されていた作品
ここでは写真撮影OKだった収蔵品を紹介していますが、浦添市美術館HPの「主な収蔵品」紹介ページでの方がきれいな画像で詳しく紹介されていますので、そちらの閲覧もおススメします。
第1室: 琉球王国の漆器 (16世紀~19世紀)
朱漆山水楼閣堆錦中央卓(しゅうるし さんすいろうかく ついきん ちゅうおうしょく)
朱漆花鳥沈金入角皿(しゅうるし かちょう ちんきん いりずみざら)
黒漆花漆絵螺鈿角盃(くろうるし はなうるしえ らでん かくはい)
朱漆花鳥密陀絵箔絵八角食籠(しゅうるし かちょう みつだえ はくえ はっかくじきろう)
朱漆牡丹唐草箔絵料紙箱(しゅうるし ぼたんからくさ はくえ りょうしばこ)
長い作品名称について
ここまで5作品を載せましたが、どの作品も名称がとても長いです。どうやら長い名前には情報がたくさん詰まっているようです。
例として「朱漆花鳥沈金膳」という作品名称を解体すると…
- 「朱漆」→ 基本的な塗り(朱漆、黒漆など)
- 「花鳥」→ どんな文様か(山水楼閣人物、龍、鳳凰など)
- 「沈金」→ 文様をつける方法(箔絵、堆朱、堆錦、沈金、螺鈿)
- 「膳」→ 何に使われるか(すずり箱、机、盆など)
こんな風に作品名称には丁寧に情報が詰まっているようなのです。
文様をつける方法
漆芸の文様をつける方法には下記のような技法があるそうです。
- 箔絵(はくえ): 漆で文様を描き金箔を押して接着させ、乾いた後に金箔を拭きはらう。
例)朱緑漆山水人物箔絵長方膳(しゅりょくうるし さんすいじんぶつ はくえ ちょうほうぜん)
例)朱漆花鳥密陀絵箔絵盆(しゅうるし かちょう みつだえ はくえ ぼん)
- 堆朱(ついしゅ): 漆に砥粉を混ぜた灰漆に文様を彫ったり、木に文様を彫って上に朱漆を塗ったりする。
- 堆錦(ついきん): 琉球独特の技法。漆に朱や黒の顔料を混ぜて堆錦餅にする。これを文様の形に切って貼り付け、柔らかいうちに凹凸をつけて仕上げる。
例)朱漆葡萄唐草堆錦卓(しゅうるし ぶどうからくさ ついきん しょく)
- 沈金(ちんきん): 沈金刀で文様を彫って、溝に漆をすり込み、金箔や金粉を押し込んで接着させる。
例)潤塗獅子牡丹沈金六角東道盆(うるみぬり しし ぼたん ちんきん ろっかく トゥンダーブン)
- 螺鈿(らでん):夜光貝やあわび貝を砥石ですって1mm以下の板状にしたものを、文様の形にして漆器にはめたり、貼ったりする。
例)黒漆蜻蛉螺鈿箱(くろうるし とんぼ らでん はこ)
各作品の技法に注目すると、鑑賞をより楽しめます。
第2室: 近現代沖縄の漆器
1879年に琉球王国は終焉し沖縄県となりましたが、貝摺奉行所(かいずりぶぎょうしょ)が解体され、漆器の製作は民間の工房が中心となりました。民間工房や漆器店が、地元向けだけではなく県外向けに土産物となるような漆器を製作したそうです。日本の様式や技法と取り入れたモダンなデザインの漆器が登場し始めています。
黒漆琉球明治文字文漆絵盆(くろうるし りゅうきゅうめいじ もじもん うるしえ ぼん)
朱漆山水堆錦硯箱(しゅうるし さんすい ついきん すずりばこ)
黒漆松竹梅鶴堆錦短冊箱(くろうるし しょうちくばいつる ついきん たんざくばこ)
朱漆芭蕉堆錦提重(しゅうるし ばしょう ついきん さげじゅう)
朱漆花文漆絵コンポート(しゅうるし かもん うるしえ こんぽーと)
朱漆貝堆錦皿(しゅうるし かい ついきん さら)
黒漆松竹梅鶴堆錦名刺入れ(くろうるし しょうちくばいつる ついきん めいしいれ)
五色茶托(ごしきちゃたく)
戦後の漆器(黒漆米軍紋章漆絵堆錦箔絵壁掛、黒漆指揮棒、黒漆トロフィーなど)
第3室: 伝統の継承
朱漆鳳凰牡丹唐草箔絵大平椀(しゅうるし ほうおうぼたんからくさ はくえ おおひらわん)
朱漆螺鈿飾箱(しゅうるし らでん かざりばこ)
彫漆「武富島風景」(ちょうしつ たけとみじま ふうけい)
朱漆蝶菊唐草沈金文庫(しゅうるし ちょうきくからくさ ちんきん ぶんこ)
第4室: 創造と発展・匠の技
ここからは撮影不可の作品ばかりでした。
沖縄県指定無形文化財「琉球漆器」保持者をはじめとする現代沖縄の漆芸作家の作品の数々が紹介されていました。
ずっと観ていたくなるような、ハッと息を呑むような美しい作品や個性的な作品の数々が展示されていました。
第5室: 漆の可能性
若手漆芸作家による、これからの漆芸の発展が楽しみになるような作品の数々が紹介されていました。
受け継がれ進化する漆芸
時系列を追って漆芸作品を鑑賞する中で、琉球王国時代に発展した伝統の技が、漆器店や漆芸作家によってますます磨かれ、私(たち)が予想できない方向へ進化を遂げていく可能性を感じることが出来ました。
これからの漆芸の進化がとても楽しみです。
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