2022年5月15日は沖縄が日本に復帰してから50年目にあたります。
「沖縄・復帰50年現代演劇集 in なはーと」の3作品を観劇してきましたので、その個人的な鑑賞記を書きます。(勢いに任せて、だけどなるべく客観的に書かせていただきました。)
※公式HPはこちらです。
会場は全て那覇文化芸術劇場 なはーと 小劇場。
「オキナワ・シンデレラ・ブルース」劇団ビーチロック
上演日時: 2022年5月4日(水)19:00、5月5日(木)11:00/16:00
あらすじ
1973年、沖縄。本土復帰して間もなく1年。飲み屋街のはずれ。さびれた音楽喫茶「BAR亜熱帯」。戦後、芝居小屋→映画館→Aサインバー→音楽喫茶と形を変えて営業を続けてきた。しかし復帰後、経営難に陥り閉店を迫られる。そんな中、店の看板娘が芸能界にスカウトされる。のぼっていく階段の先に見える景色とは…
作・演出 新井 章仁
出演:[劇団ビーチロック] ジョーイ大鵞/片山英紀/山内そうけん/大嶺佳奈/伊都/戸川蘭/瀬名/千晴/仲泊伽帆 [ゲスト出演] 仲間千尋(演撃戦隊ジャスプレッソ)、田島龍(劇団リバース ザ ワールド)、東克明(サテライト沖縄/名護スクランブルスタジオ)、古堅晋臣(ukulele bowl)、岸本尚泰(Be-STUDiO)、Hitoshi&Arita (上演時間: 1時間50分)
公式HPより引用
【感想】人情!
「人情」が描かれている作品でした。温かい気持ちを家に持って帰れました。コロナ禍で生の舞台に触れる機会が減っている中(個人的は乳幼児子育て中なのでますます難しい)、お芝居に求めるものはこれだった!と思い出した気分でした。観に行けて良かった、お芝居っていいなぁとつくづく余韻に浸った夜でした。
ブルースシンガー&サックスのユニット Hitoshi&Arita さんの音楽が舞台を彩り、いや、世界観を創り上げていましたが、心に響くブルースの中で描かれる「人情」が憎いほど涙を誘います。家族、仲間、師匠や弟子、芸能プロとシンガー…様々な関係性の中に生まれる絆。いいなぁと思いました。座組の雰囲気も温かいものを生み出していました。
「金返せ!」という文字が顔に書いてありそうな悪役キャラ(でもコメディとしての良いアクセントになっている)が喫茶店の主人を追い詰めますが、店の看板娘ルコのレコードを買ったりと憎めない部分が描かれていて、悪者を悪者で終わらせていないところに安堵感を覚えます。東京にルコを連れて行った芸能プロも、最初は厳しくトレーニングするもののルコのことを大事に思っているからこそ吐いたセリフがあったりで「じーん」ときました。
デビューへの道を駆け上がっていくものの自身の生い立ちと対峙させられて・・という役どころを演じているルコ役・仲間千尋さんの、観ているこちらも応援したくなる愛らしさ、可愛らしさ、素朴さ、沖縄総天然色感、元気よさ、ユーモア、したたかさ、たくましさ、怒りを共存させて演じている絶妙なバランスがすごかったです。
ウチナーグチを話すおばあがルコに化粧を施すシーンも印象的でした。もう1度観たいシーンです。
「72’ライダー」劇団O.Z.E
上演日時: 2022年5月7日(土)19:00、5月8日(日)13:00/18:00
あらすじ
50歳の同窓会に出席しなかったやーすーのバイク屋に、友人のてっちゃんと長一が訪ねて来た。ビールを飲みながら二次会がはじまり、若い頃のバイクの話等で盛り上がる。そこへ同級生の妙子、みえ、明日香も加わって、最近の近況報告や懐かしい高校時代の話に花が咲く。あの頃と変わっていないところと、変わってしまったところ。悩み多き五〇歳。そしてまた「沖縄」も今年、復帰五〇年を迎える…(上演時間: 1時間50分)
作・演出:真栄平 仁
出演:新垣晋也/平安信行/金城理恵/秋山ひとみ/上原一樹/渡嘉敷直貴/真栄城弥香/平良直子/うどんちゃん/具志堅興治/金城道
公式HPより引用
【感想】「バイクの爆音」にフォーカスした斬新さ
まず50歳の同窓会シーンがとにかく臨場感に溢れていて、コロナ禍でこういう飲み会を久しくやっていないので「あ~同窓会やりたいなぁ」という気持ちに。同級生の家に押しかけて本人不在なのに飲み会を始めるというありそうなシチュエーションに親近感を覚えました。「意味プー」懐かしい~、「おえ~」って今は言わない~、この台詞の気まずさ分かる~、とウチアタイする要素が多くていちいち楽しい気持ちになりました。
その飲み会シーンはとにかくテンポが良くて笑える部分が多く「難しい話は笑えた方がいい」とする作者(お茶の間の人気者ひーぷーさん)の腕を感じさせます。気持ちよく心から観客を笑わせることの方が涙を誘うよりも難しいのではないかと。ところで「ジーンズショップU」などローカルネタは、若い人や本土の方がどう感じるのかも気になります。
笑いについての話が多くなってしまいましたが、この作品は、復帰後に国会議事堂に激突死した青年の実話を元に、現在と過去がリンクしながら展開していき、その難しい部分とのバランスがとても絶妙でした。「今の俺達に当時の人ほどの熱量はあるか分からんな~」と言った後に、コザ騒動で「うちなんちゅをバカにするなー!!!」と叫ぶシーンが挿入されるなど、現代の感覚を置いてけぼりにせず、同時にしっかりと当時の雰囲気を描いており、経験していない世代にも伝わるような仕掛けが沢山施されていました。
主人公のバイク屋のやーすーは亡くなった青年(上原安隆さん)を投影したようなキャラクターではありますが、終始、謎に包まれたかんじで描かれています。現在のやーすー、過去のやーすーがおり、それぞれの設定に観客から見ると余白的な部分が多く、あれこれと想像できるようになっています。
過去のやーすーが「沖縄行ってみたいな~」と気楽な雰囲気で話しかける本土の女性と対峙するときの言葉の重み、現在のやーすーがバイクの免許を頑なに取らせなかった息子と対峙するときの言葉の重み、それぞれに観客に訴えかけるものがありましたが、それ以上にラストシーンの爆音がやはり最も印象に残りました。台詞ではなく「爆音」に重要なことを語らせる演出の斬新さ。観劇から数週間経った今でも、耳を塞ぎたくなるようなあの爆音や、そこに立ち込める臭いが蘇り、この作品の主題は激突死した青年(72’ライダー)の「心のうち」なんだと残像をくっきり浮かび上がらせています。しかし、前述したように余白的な部分が多いため、その「心のうち」は観客それぞれが舞台から感じ取ったり、自分なりに解釈し得るものでもあります。そこがいいです!そこがいい!
悔しさ、やりきれなさ、怒り、それらを抱えながらしたたかに生き抜かないといけない、でもそれが出来ない人もいる・・・
私自身は復帰から10年以上経った後に生まれており、1972年の雰囲気は見聞でしか分かりませんが、戦争⇒アメリカ統治下⇒復帰を経験してきたおばあちゃん世代が、それぞれの時代でいったいどんなことを思っていたのか、感じていたのか・・・この舞台で思いを馳せることができました。
先人たちの生き抜いてきた過程の上に自分の生活があることを忘れずにいたいし、おじいちゃんおばあちゃん、そのもっとご先祖様にもっとウートートーしないとなぁと思いました。
ところで、斬新だったのは舞台の使い方もでした。舞台上にずらっと並んだバイク、反響版を取り払った大胆な舞台を観られたのは、観劇できた人の特権ですね。
追記:「復帰50年どうこうよりも現実を生きるので精いっぱい」という台詞は、沖縄社会を象徴するような重みがあるものでしたが、「でも夢はあった方がいい」と転化したところに明るい気持ちになりました。復帰50年でどう変わったのか、変わっていないのか、希望を持ちたいけど自分の力だけで現実をどうこうできるものでもない、それでも未来に希望を持ちたい…。そう思える人が多かったらいいなと思いました。
「9人の迷える沖縄人」劇艶おとな団
上演日時: 2022年5月13日(金)19:00、5月14日(土)13:00/18:00
あらすじ
1972 年 沖縄の本土復帰を目前に、有識者から主婦、戦争を体験した老婆、沖縄へ移住した本土人などの9名がひとつの部屋に集められた。それぞれの立場や経験から語られる沖縄に対する想い、日本への想い、そして戦争、恒久平和とは…9人の様々な想いは交差し、やがて現在と交錯する渦の中に流れ込んでゆく。(上演時間: 1時間50分)
作:安和学治、国吉誠一郎 演出:当山彰一 作曲:大司義人 照明:稲嶺隆
出演:仲嶺雄作、國仲正也(鳩ス)、犬養憲子(芝居屋いぬかい)、島袋寛之(TEAM SPOT JUMBLE)、宇座仁一(宮城元流能史之会)、上門みき、伊禮門綾(劇団綾船)、与那嶺圭一(TEAM SPOT JUMBLE)、当山彰一(劇艶おとな団)
公式HPより引用
【感想】舞台と現実の「地続き」を感じさせる
台詞ひとつひとつに頭を抱え込まされる思いでした。こんなにド直球で基地問題について語らせている作品はそうそうないのでは…
独立論者、復帰論者、戦争で満州から引き揚げ沖縄で商売する本土出身者、子ども達に日本の高い教育をと主張する主婦、基地問題の有識者、といった登場人物が一堂に会する設定で、新聞から飛び出してきたような言葉の応報がたくさんあるのですが、この作品もまた観客を置いてけぼりにしない構成になっていました。沖縄芝居の役者やおばあがウチナーグチながらに場を和やかにさせていたし、時には沖縄らしさを象徴したり、とても重要な言葉を語っていました。
50年前が現在と地続きであることもさながら、舞台と現実が地続きであることも感じさせました。実際、この9人の中に入り込んで意見を交わしたくなるような観客もいると思います。もし10人目の誰かか客席から飛び入りで参加することがあったりしたらどうなるだろう…なんて想像してしまいました。
色々な立場の9人がいる中「考えたってどうしようもない」と言う若者の台詞には正直救われる思いでした。しかしながら「考えたってどうしようもない」と若者が言った相手の有識者は、論を述べることは出来ても自分自身の意見を問われると詰まってしまうほどに複雑な事情を抱えていて…。だからこそどう決着がつくのか気になりましたが、結論がそう簡単に出るものではなく。
「沖縄は蚊帳の外」という言葉が出てきましたが、「そうそう」と思いました。当事者であるようでいて、声を上げ続けているけど、決定権がない。基地問題はあまりにも大きすぎて、「よく分からない」「考えてもどうしようもない」という行き先の見えない思いも含め、常に混沌としたものだけど、角度を変えながら「じゃあどうする?」とみんなで問い続けていくことが重要だと思います。
意見も立場も年齢も職業もバラバラの人が同じ場所に集まることは現実にはなかなかなく、沖縄の縮図を見ている気にもなりました。現実ではぶつかるのは恐いけど、舞台上ならば…
舞台の真ん中に長い机。ここはとある会議室。ワンシチュエーションながら「復帰前」と「今」、それと同時に「舞台」と「現実」が交錯するような会話劇は、作者が「12人の怒れる男たち」を沖縄版でやったらどうなるだろう?と思ったところから始まったそうです。
ぜひ沖縄の外でもたくさんの人に観てもらいたいです。
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